文学傾向の強いゴングール賞の受賞作としては、デュラス以来に売れて、フランスでは100万部を突破しているという。私にとってデュラスは好きな作家10人に必ず入る存在だけれども、言うて読みやすい作家では決してないと思う。それに比べると、本書はSF/ミステリとしてもちゃんとエンタメしていて、かつ知的で、愛を描いた純文学でもある。
そして装幀が素晴らしい。この異様さに惹きつけられるカバーが、読み終わると強烈に意味を成す。
スタイルは群像劇。成功した起業家であり、殺し屋でもある男のストーリーからはじまる。この書きぶりがハードボイルドで私好み。他に、自分の倫理に反する案件を抱えて葛藤する優秀な黒人女性弁護士、アフガニスタン帰りの米軍兵士とその家族、歳の離れた恋人との関係にいきづまる建築家などが出てくる。彼らに共通するのは同じエールフランスに搭乗していたこと。その便は激しい乱気流に巻き込まれ、そこからSF的な事件が展開する。
人生は選択の連続で、巻き戻すことはできない。自分にとってその選択がベターな選択であったのかという正解は絶対にわかり得ない。でも、もし、ある分岐点で自分がもう一人いて、両方を試してみることができたとしたら、それはいいことなのかどうか? そんなことを考えさせられる。本書の登場人物たちは、良くも悪くもそういう状況を経験するからだ。結果はケースバイケース。もう一つの選択が改めて経験できることが良かったケースも、悪かったケースもある。で、私はやっぱり、どうあれそんなのは嫌だな。人生はある程度、自分の責任においてすっきりさせておかないと、複雑になりすぎてしまう。
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