top of page

ブレーズ・サンドラール 著/生田耕作 訳『世界の果てまで連れてって!…』

最強のミューズ現る…。そんな感想。



物語は79歳のミューズ、老女優テレーズの豪快すぎるセックスシーンからはじまる。街で拾って来た若い情夫は外人部隊上がりで、身体中に刺青が入ったヤクザもの。入れ歯は吹っ飛ぶし、男は嘔吐するしで、目も当てられないんだけど、テレーズはようやく自分がはじめての恋をしたのではないかと感じる。

テレーズは舞台を控えている。自分にぴったりと思われる役で、さらに一華咲かせてやろうと、準備に余念がない。狂気じみた装いと化粧。入れ歯は入れたほうがいいのか、ないほうがいいのか、女優のど根性が怖いけど凄い。

ひと言で言うなら、〈とんでもない「クソババア」が周りを混乱に陥れながら突き進んでいく、エネルギー過多な作品〉なんだけど、こういうミューズって、日本ではなかなか現れないんじゃないかな。スターや文化人に期待される老女像ってわりとステレオタイプで、「老いてなお美しい」か「老いて性を超越し物分かりがよくなった(精神的な出家キャラ)」か、みたいなものしかないから。

散々な騒動の末、最後の幕切れも呆気なくて、最高で、笑える。でも、このミューズは自分の人生そのものがまさに一大喜劇で、それを風格たっぷりに演じ切ったのだろう。


生田耕作さんの訳には毎回、うならされる。なんと言っても、ご存命ならいちどは原稿依頼をしてみたかった憧れの巨人が、私にとっての生田耕作さんです。野崎歓さんが生田さんの名訳に賛辞をおくる解説文もとてもいい。



***

Comentários


contact me

bottom of page