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2020年の担当書を振り返る

2020年は11冊つくりました。著者、デザイナー、イラストレーター、カメラマン、校正者と、人に恵まれた1年でした。楽しかったな。担当本を一気、振り返り。


目次

  • 赤松利市 著『下級国民A』

  • 寿木けい 著『閨と厨』

  • 村井理子 著『兄の終い』

  • 鈴木智彦 著『ヤクザときどきピアノ』

  • 精神科医Tomy 著『別れに苦しむ、あなたへ。』

  • Tehu(張 惺)著『「バズりたい」をやめてみた。』

  • 富増章成 著『この世界を生きる哲学大全』

  • 五十嵐大 著『しくじり家族』

  • 松永正訓 著『どんじり医』

  • 黒鳥英俊 著『恋するサル 類人猿の社会で愛情について考えた』


赤松利市 著『下級国民A』

赤松先生、初のエッセイ作品。先生が、東北にいる頃の実話です。この後の東京篇もつくれたらいいな、そのうちに。カバーは、2019年12月の早朝、日が昇る前の浅草で撮影した。先生の色気がすごい。絵になる! 結局、カバーには写真1点しか使っていないのですが、場所を変えて撮ったアザーが、どれもこれも素晴らしく、皆さんにお見せできないのが、もったいなく、悲しいかぎり。


装幀・本文デザイン:國枝達也

カバー写真:沼田学

校正:八木寧子




寿木けい 著『閨と厨』

私にとっての寿木さんは、文字の人です。って、もちろん、寿木さんのレシピで料理もするのだけれど、なんていうか、文筆家。同世代にこんなに巧い人がいるということに感謝したくなる。引き締まった文章を書かれるけれど、ご本人はいたずらっ子みたいにして何かを面白がってしまうような、チャーミングさがある。主題となる観察対象を、豊かな言葉で書き、そしてそこから一足飛びに、違う何かに思考を跳躍させる。その何かは、自身の過去の経験だったり、見たり読んだりしたものだったり、いろいろなんだけど、主題からの距離がとっても長い。私はいつも、寿木さんの長距離ジャンプに引っ張られるようにして、自分という貧弱な個の中から飛び出すことができる。


装幀・本文デザイン:高柳雅人

装画:原裕菜

校正:円水社




村井理子 著『兄の終い』

怒涛のようにつくった本。亡くなったお兄さんを終う五日間、村井さんはたくさんの写真を送ってくださり、そのたびに、あまりのことに胸が痛んだ。お兄さんを亡くされたばかりの村井さんにとっては、まだ「終う」という気持ちではなかったかもしれず、だから『兄の終い』というのは、当初、仮タイトルだった。でも、デザイナーの鈴木成一さんが、「タイトルがとてもいいですよ」と言ってくださったことで、二人して(村井さんと私)心を決めた。本に描かれたとおりのかっこいい加奈子ちゃんと、賢い良一君の幸せを願うと同時に、お兄さんのご冥福を改めてお祈りします。


装幀・本文デザイン:鈴木成一デザイン室

装画・挿画:及川ゆき絵

校正:円水社




鈴木智彦 著『ヤクザときどきピアノ』

鈴木さんが、ピアノを習いはじめ、運命の師レイコ先生の御言葉をツイートするようになってから、しばらく。突然、これだ! と、思いついた企画。同時に、「しまった。今ごろ思いつくとか、私、クソ遅っせ!」と自己嫌悪に陥った。さっそく鈴木さんに、ダメ元で打診したところ、私以外に「ピアノ×鈴木智彦」でオファーした編集者はいなかったそうです。なかなか出来てこない原稿を心配していたのだけれど、「そんなことより、『ダンシング・クイーン』が弾けるようになるかを心配しろ」と著者にキレ気味に一喝され、それもそうか、とその後はピアノの進捗ばかり心配するようになりました。発表会は、泣いたよね。大人の発表会はみんな緊張して間違うから、会場も、見守りモードなんですね。何度躓いても、みんなで見守る。やさしい世界。


装幀・本文デザイン:新井大輔

装画・挿画:高橋将貴

校正:牟田都子




精神科医Tomy 著『別れに苦しむ、あなたへ。』

精神科医Tomy先生には、最初、上記の本とは全然違う企画を提案するために、お会いした。いろんな人間関係において、「ナメられてる」と悩む(主に)女性に向けた本をつくりたいと思っていたんです、本当は。初対面のTomy先生は私を見るなり、「でも、りり子さん、ナメられるタイプじゃなさそうですよね……」と、精神科医らしく、しれっと見破り、そこから、えらく話が盛り上がりました。で、本当にお書きになりたかったという、先生のご体験を書いていただくことになって、この本が出来たという経緯。死別や、別離を主題にした実用書は意外と少ないので、ずっと読み継がれていくものになればいいなと思っています。


装幀:渡邊民人(TYPEFACE)

本文デザイン:清水真理子(TYPEFACE)

校正:円水社




Tehu(張 惺)著『「バズりたい」をやめてみた。』

コロナ禍、緊急事態宣言で外出自粛中の時期に、いちばん喋った著者がTehuさん。この本の原稿を書いてもらっている合間に、Zoomでつないでは、喋り、彼の思考を整理する手伝いをしていた。じっさい、Tehuさんはとても頭のいい人で、ユーモアがあってノリがよく、謙虚だし、何よりまだ若いのに、すでに「自分という存在について深く内省したことがある人」の落ち着きがあった。人生は、いちどや二度、大きくコケても、立ち直せるあってほしい。狭量な炎上社会だからこそ、強く願う。


装幀・本文デザイン:西村健司

カバー写真:柴田ひろあき

校正:円水社




富増章成 著『この世界を生きる哲学大全』

A5判、376頁。SNSではほとんど宣伝しなかったけど、じつは今年いちばん、恐ろしく、大変だった本。富増先生はこの大著の大半を自粛期間中に一気に書き上げた。ゲラになってからは、しばらくまともに寝ずに原稿に向き合った。この本を入門書にして、自分に合ってそうな哲学者の本を読んでいくといいと思う。ネットよりもリアル書店でよく売れている本。


装幀・本文デザイン:bitter design(矢部あずさ+岡澤輝美)

イラスト:飯村俊一

編集協力:細田繁

校正:古川順弘




五十嵐 大 著『しくじり家族』

五十嵐さんが書いた、聴覚障害を持つご両親についてのハフポの連載記事に、私は二度、大泣きした。自然の成り行きで、彼のご家族について、もっと知りたいと思うようになった。で、エッセイを書いてみませんか、と依頼した。五十嵐さんは、自分で厳しい〆切を課し、初めての書き下ろし単行本の執筆に挑戦した。つらかった記憶を引っ張り出すのは、かさぶたをめくるような作業だったのでないかと思う。でも、書き切った。『しくじり家族』の「しくじり」という言葉について、五十嵐さんがどう思っているかはわからないけど、私は前向きな気持ちを持っている。「しくじっちゃった(えへっ)」の「しくじり」。またすぐに立て直せる、という雰囲気を持つ「しくじり」。本書では、ごりごりの啓蒙ではなく、五十嵐さんの個人的なエピソードを通じて聴覚障害者のことを知るきっかけをもらえる。そこがとても気に入っている。あと、打ち上げで五十嵐さんが言った、「原稿を書いているときは、りり子さんしか頼る人がいませんでした」という言葉。そうだよね。改めて、そのことは、ずっと忘れないでいたいと思った。


装幀・本文デザイン:國枝達也

装画・挿画:大橋裕之

校正:円水社




松永正訓 著『どんじり医』

松永先生がご自身のブログで『兄の終い』を取り上げてくださっているのを偶然、目にした。それがきっかけで、とても久しぶりにご連絡してみたら、あれよあれよのうちに、この本が出来た。私はもともと松永先生の読者だったし、先生が「いままで書いたことがないけどエッセイを書いてみたい」とおっしゃったことに、編集者として惹かれた。先生がお書きになるものは、どちらかといえば「泣き」のポイントを刺激するものが多い。でも、今回は明るく、温かく、ユーモアがある青春記を目指した。「医者で作家」である先生が、「作家で医者」である先生として受け止められていくきっかけになればいいのだけれど。


装幀:鈴木成一デザイン室

装画・挿画:松田 学

校正:円水社




黒鳥英俊 著『恋するサル 類人猿の社会で愛情について考えた』

黒鳥さんは、上野動物園や多摩動物公園で、長きにわたって類人猿の飼育員を務めてきた人物。担当本、ヤン・モーンハウプト『東西ベルリン動物園大戦争』の訳者・赤坂桃子さんのご友人でもある。『東西ベルリン~』では、動物関係の事実確認が必要だったので、監修に就いていただいた。刊行後は、赤坂さんや私、『東西ベルリン動物園大戦争』にも登場するベルリン動物園からの客人を連れて、上野動物園を案内してくださり、ふつうは見られないバックヤードを見せてくださったりもした。あのときはテンション、上がりました。この本は、外出自粛期間中に取材を重ねて出来た本。私にしては珍しく、子どもでも読めるような内容を目指しました。ヒトとして見習いたくなるような、ゴリラやオランウータンが登場します。


装幀・本文デザイン:清水真理子(TYPEFACE)

装画・挿画:徳丸ゆう

構成:土屋敦

校正:円水社




近藤康太郎 著『三行で撃つ 〈善く、生きる〉ための文章塾』

10年以上追っかけていた著者なので、思い入れが深い。がっつり仕事をしてわかったことは、私は近藤さんはナチュラルに文章が巧い天才肌の人なのだと思っていたのだけれど、それだけではなかったということ。近藤さんは、毎日なにがあっても、欠かさず、怠けず、早朝に起きて書いている。本にも書いてあるけれど、原稿は少なくとも第6稿まで直す。今回にいたっては、第8稿まで直した節もあった。凄みが違う。仕事で甘えてはいけない。弱音を吐く権利など、私にはない。そう思った仕事。


装幀・本文デザイン:新井大輔

装画:ベン・シャーン

校正:朝日新聞メディアプロダクション


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